二十四日目 日記
ああ、ハロウィン。
世界中の女の子が僕に一目惚れすればいいのに!
+小+
華やかなパレードに紛れながら、マイトは浮かれていた。
彼の故郷ではいつからか万聖節前夜を祝う習慣があったが
こんな華やかなものではなく葬式めいていたのだ。
万聖節当日の雰囲気、花をささげる習慣は嫌いではない。
しかし、やはり賑やかなのがいいと体現するように彼は小躍りした。
そんな中、不意にトントンと肩を叩かれてマイトは背筋を伸ばした。
振り返ると見知らぬ一人の女性がニッコリと微笑んでいる。
不埒な想像にドギマギしつつ訝しむと、彼女は一礼して挨拶した。
「おひさしぶりです、マイトさん」
その声にストンと疑問が腑に落ちる。
フランケンのお面を頭に引っ掛けるようにずらしてマジマジと相手を見る。
「なんだ、ヤトユウか……また趣味的な格好だなぁ」
ハロウィンのお祭り騒ぎで格好には違和感のないものの、マイトは嘆息した。
安心したような落胆したような微妙な吐息にヤトユウは笑みを吹き出す。
「マイトさんこそ、さっきのだいぶ目立ってましたよ。ほら」
辺りに視線を投げるヤトユウに釣られて視線を巡らせれば、確かに。
でもそれはお前にも一端あるんじゃないかとマイトは胸中で言葉を落とした。
「あ、ユーリさんだ」
手を女性らしく振るヤトユウの言葉に振り返ると確かにエウリーネが遠目に見える。
控え目に手を振り返す彼女の姿に、何か嫌な予感がした。まさか、まさかな。
そうして、その予感当たったかのようにエウリーネはその場から消えていた。
「あれ、どうしたんだろう?」
不思議そうな表情をする隣の相手、その格好を改めて見る。
女性らしい顔つきに女性らしい格好に女性らしい物腰を気取っている。
衝動的にその頭をはたきたくなるのを堪えて、ため息で吐き出した。
「エウリーネから見れば、恋人の隣でにこやかに手を振る"女性"かぁ」
「……ええ?」
「-小-お前のことだ!+小+ あああ、なんかカンチガイしたんじゃないか!?」
頭を抱えてうずくまる。多少の目移りも気にしない彼女ではある。
だが堂々と隣でにこやかに振舞われたら流石にどうだろう?
そもそも、そこそこ知れてるはずなのだ僕らのことは。その上で、と思われたら。
-小-
「違うんだよぉぉ、エウリーネェェ!」
+小+屈伸の要領で跳ね上がり、半べそで駆け出す。
虚空に描き出したヘイストの二重魔法陣に飛び込んで、更に早く。
遠ざかっていく姿の末尾に"ふふふ面白い"と呟く女性の声が、ヤトユウには聞こえた気がした。
------------
「いったぁい、な~に~?」
腕を強く引かれて不満をこぼすエウリーネに構わずベラは口元を歪めた。
木陰に彼女ごと引っ張り込んで、マイト達の様子を覗き見る。
頭を抱えてうずくまる様子にベラは大口を開けて笑う。
「え、え? ど、どういうこと?」
「カンチガイしてるのよ、ユーリが突然消えたから」
実のところ、エウリーネはユウのことをちゃんと認識していたのだ。
近付いていこうとしたところをベラが木陰に引きずり込んで一緒に隠れた。
「女装の彼を、知らない可愛い娘といる、と認識されたらっていうマイトの焦りよ」
「え? あ、え?」
「疑念は小さくとも、弁解の余地なくあなたが消えたらどう思うかしら?」
愉しそうに筋書きを話すベラに、エウリーネもやっと事情が飲み込めた。
ぷーっと、頬をふくらます。恋人はイタズラされたのか、と。
だがそんな表情もすぐに流れて消えていった。一度ぽかんとしてから聞き返す。
「……イタズラ、ってこと?」
「ま、そうね。でもあんなにオーバーに焦ってくれると最高ね」
「そ、そっかぁ。それじゃあ、仕方ないかなぁ……」
悩んだふうにモジモジとしてから、それとなくベラから離れるエウリーネ。
不思議そうな顔でそれを見るベラ、エウリーネはベラの上を指差した。
ベラの上に影が落ちる。
-小-
「Trick or Roast!!」
+小+「きゃああああぁぁ……!」
木の上から飛び降りてくるマイトに、ごろごろと転がってベラが逃げる。
同時に地面が焼け焦げる匂いがした。手を戦慄かせて舌打ちをする。
-小-
「なぁにすんのよ!」
+小+「話は全部聞いたぞ! カンチガイを仕組んで僕を貶めようとは!」
「ちょっとしたイタズラじゃない! ああ、もうあったまきたー!」
腰に手を当てびしっとベラを指差すマイトに、顔を真っ赤にしたベラ。
鞭を引っ掛けたベルトから外すと構えて歯をむき出しにした。
「ここで勝負つけてやるわ!」
「僕もね、引けないときというものはあると思ってるよ」
右手一本を前に狙い定めて構えるマイトと、鞭を高く掲げるベラ。
そっと離れて事態を見守るエウリーネ。緊張が走る。
「ベラに20PS」
「私はマイトさんに」
それを見ながら賭けに興じるレイとシャイ。
こんな騒ぎに慣れた紗雪も喧騒を放ってハロウィンの仮装に紛れていった。
そんな紗雪とすれ違いに様子を見に来たヤトユウは呆然とする。
「ちょ、二人ともどうしたんですかー!?-小- おぉぉぉああ!?+小+」
決断は早く飛び込んだヤトユウは同時に二人の先制攻撃を浴びることとなった。
そのまま毒と炎に焼かれて大げさに地をのた打ち回る。
バタバタと暴れて炎と毒気を抜いてまた止めにはいるを繰り返す。
二人を止めた頃には不思議な色合いになったヤトユウがピクピクと震えていたとさ。
おしまい。
-小-
世界中の女の子が僕に一目惚れすればいいのに!
+小+
華やかなパレードに紛れながら、マイトは浮かれていた。
彼の故郷ではいつからか万聖節前夜を祝う習慣があったが
こんな華やかなものではなく葬式めいていたのだ。
万聖節当日の雰囲気、花をささげる習慣は嫌いではない。
しかし、やはり賑やかなのがいいと体現するように彼は小躍りした。
そんな中、不意にトントンと肩を叩かれてマイトは背筋を伸ばした。
振り返ると見知らぬ一人の女性がニッコリと微笑んでいる。
不埒な想像にドギマギしつつ訝しむと、彼女は一礼して挨拶した。
「おひさしぶりです、マイトさん」
その声にストンと疑問が腑に落ちる。
フランケンのお面を頭に引っ掛けるようにずらしてマジマジと相手を見る。
「なんだ、ヤトユウか……また趣味的な格好だなぁ」
ハロウィンのお祭り騒ぎで格好には違和感のないものの、マイトは嘆息した。
安心したような落胆したような微妙な吐息にヤトユウは笑みを吹き出す。
「マイトさんこそ、さっきのだいぶ目立ってましたよ。ほら」
辺りに視線を投げるヤトユウに釣られて視線を巡らせれば、確かに。
でもそれはお前にも一端あるんじゃないかとマイトは胸中で言葉を落とした。
「あ、ユーリさんだ」
手を女性らしく振るヤトユウの言葉に振り返ると確かにエウリーネが遠目に見える。
控え目に手を振り返す彼女の姿に、何か嫌な予感がした。まさか、まさかな。
そうして、その予感当たったかのようにエウリーネはその場から消えていた。
「あれ、どうしたんだろう?」
不思議そうな表情をする隣の相手、その格好を改めて見る。
女性らしい顔つきに女性らしい格好に女性らしい物腰を気取っている。
衝動的にその頭をはたきたくなるのを堪えて、ため息で吐き出した。
「エウリーネから見れば、恋人の隣でにこやかに手を振る"女性"かぁ」
「……ええ?」
「-小-お前のことだ!+小+ あああ、なんかカンチガイしたんじゃないか!?」
頭を抱えてうずくまる。多少の目移りも気にしない彼女ではある。
だが堂々と隣でにこやかに振舞われたら流石にどうだろう?
そもそも、そこそこ知れてるはずなのだ僕らのことは。その上で、と思われたら。
-小-
「違うんだよぉぉ、エウリーネェェ!」
+小+屈伸の要領で跳ね上がり、半べそで駆け出す。
虚空に描き出したヘイストの二重魔法陣に飛び込んで、更に早く。
遠ざかっていく姿の末尾に"ふふふ面白い"と呟く女性の声が、ヤトユウには聞こえた気がした。
------------
「いったぁい、な~に~?」
腕を強く引かれて不満をこぼすエウリーネに構わずベラは口元を歪めた。
木陰に彼女ごと引っ張り込んで、マイト達の様子を覗き見る。
頭を抱えてうずくまる様子にベラは大口を開けて笑う。
「え、え? ど、どういうこと?」
「カンチガイしてるのよ、ユーリが突然消えたから」
実のところ、エウリーネはユウのことをちゃんと認識していたのだ。
近付いていこうとしたところをベラが木陰に引きずり込んで一緒に隠れた。
「女装の彼を、知らない可愛い娘といる、と認識されたらっていうマイトの焦りよ」
「え? あ、え?」
「疑念は小さくとも、弁解の余地なくあなたが消えたらどう思うかしら?」
愉しそうに筋書きを話すベラに、エウリーネもやっと事情が飲み込めた。
ぷーっと、頬をふくらます。恋人はイタズラされたのか、と。
だがそんな表情もすぐに流れて消えていった。一度ぽかんとしてから聞き返す。
「……イタズラ、ってこと?」
「ま、そうね。でもあんなにオーバーに焦ってくれると最高ね」
「そ、そっかぁ。それじゃあ、仕方ないかなぁ……」
悩んだふうにモジモジとしてから、それとなくベラから離れるエウリーネ。
不思議そうな顔でそれを見るベラ、エウリーネはベラの上を指差した。
ベラの上に影が落ちる。
-小-
「Trick or Roast!!」
+小+「きゃああああぁぁ……!」
木の上から飛び降りてくるマイトに、ごろごろと転がってベラが逃げる。
同時に地面が焼け焦げる匂いがした。手を戦慄かせて舌打ちをする。
-小-
「なぁにすんのよ!」
+小+「話は全部聞いたぞ! カンチガイを仕組んで僕を貶めようとは!」
「ちょっとしたイタズラじゃない! ああ、もうあったまきたー!」
腰に手を当てびしっとベラを指差すマイトに、顔を真っ赤にしたベラ。
鞭を引っ掛けたベルトから外すと構えて歯をむき出しにした。
「ここで勝負つけてやるわ!」
「僕もね、引けないときというものはあると思ってるよ」
右手一本を前に狙い定めて構えるマイトと、鞭を高く掲げるベラ。
そっと離れて事態を見守るエウリーネ。緊張が走る。
「ベラに20PS」
「私はマイトさんに」
それを見ながら賭けに興じるレイとシャイ。
こんな騒ぎに慣れた紗雪も喧騒を放ってハロウィンの仮装に紛れていった。
そんな紗雪とすれ違いに様子を見に来たヤトユウは呆然とする。
「ちょ、二人ともどうしたんですかー!?-小- おぉぉぉああ!?+小+」
決断は早く飛び込んだヤトユウは同時に二人の先制攻撃を浴びることとなった。
そのまま毒と炎に焼かれて大げさに地をのた打ち回る。
バタバタと暴れて炎と毒気を抜いてまた止めにはいるを繰り返す。
二人を止めた頃には不思議な色合いになったヤトユウがピクピクと震えていたとさ。
おしまい。
-小-