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【偽島 終章 二話 / 胸に 届く】

【注】
いきなり文章が前面手直しされたりもしますが
「ちっ、あいつめしくじりやがったな! ファック!」
と、寛大な心で胸の内に留めて置いてください。

【二話 登場人物】
Eno:0721 マイト・カルフール(Axion 隊長 魔術師人形)
Eno:0015 エウリーネ・□□□□(Axion 副長 羽根つき歌姫)
Eno:0054 クレイグ=レイヴァース(Axion 副長 古代種戦士)
Eno:0214 月城 紗雪(Axion 隊員 羽根つきお嬢様)
Eno:0314 葛葉 玖条(Axion 隊員 戦闘狂化け狐)
Eno:0704 ベラ・ベアトリクス(Axion 隊員 守銭奴)

Eno:0023 キルリア=F=スーサイド(電子の少年)*

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【二話 / 胸に 届く】

「みんなの元へ帰ろう」
雨の中で温もりを感じながら、マイトは手の内で震えるエウリーネに気付く。大きな羽根も濡れて冷えはじめたのだろう彼女の身体が熱を帯びはじめてる気がした、早く引き上げないといけない。もう仲間も皆戻っている頃だろうか、腕の中で震えながら頷く彼女を抱えてマイトは歩き出し顔を上げる。
「みんなして覗き見か。趣味が悪いな……練習試合は?」
「不戦勝だ」
そう遠くない距離に人影が四つ雨に煙ってやってきていた。玖条を先頭に間近まで歩み寄り、濡れた足音が止まる。魔石で出来た目が雨模様の景色を写して濁って見えた。
「そうか。仕方ない早く帰ろう、風邪を引くよ」
「待て」
足早に立ち去ろうとしたマイトの肩を玖条は掴んで止めると、エウリーネを奪うように紗雪たちに預けさせて彼の手を掴んだ。その目を見据えて雨音に負けない声を彼女は張った。エウリーネを抱え去っていく仲間を見送る。
「二人だけで話がしたい。少しツラかせよ大将」

仲間が完全に雨の向こうに姿を消してから、ようやく玖条はマイトの手を離した。今日に限って魔物の匂いがしない雨の遺跡内で二人佇む。睨み付ける玖条とは対照的に、マイトの瞳は景色を薄く写して受け流していた。おもむろに玖条は戦斧を振り上げ、そのまま静止して口を開いた。
「勝負しろ」
「何故?」
「あんたがまだ使い物になるかどうか知りたい。足手纏いに命は預けられねぇ」
「……」
「了承と取るぜ」
言葉と共に振り下ろされる戦斧を、ギリギリのステップで避けようとしてマイトは転倒した。無様に転がるところに足蹴の影が見え、一回転してやり過ごし地を這い舐める。身体がギシギシと軋んだ、いやずっと前から軋んでいた。それでも今までは力を籠めることができたのに。今日は立ち上がれる気さえしなかった。
「立てよ……」
戦いを続ける限りその作り物の身体にも限界が近い。いつ壊れるかわからない身体を抱えての冒険自体も限界だろう。それは随分前から覚悟していたことだ。もうすぐ彼の冒険は終わると知って。でも、それでも。
無造作に伸ばした玖条の腕がマイトの襟首を掴み無理矢理に吊り上げた。投げ捨てるように雨溜まりに背中から叩きつけられ、盛大に水音が跳ねる。そのまま動かない。
「立てよっ!」
唇をかんで俯き、焦るように荒げる玖条の声もマイトには届かない。もう結果は出ている。全身に力が入らない。指一本でさえ動かせる気がしないまま、ただ彼は雨空を見ていた。

「――もういい、もう無理だ。アンタ島を離れろよ」
堪えるような声音で、玖条は罵るように吐き捨てる。顔を上げれば雨に濡れた表情が歪んで、仰向けのまま動かないマイトを見下ろしていた。紅い魔石の瞳の奥を覗こうとして、そのまま何も反応を示さない相手を眺め続けて踵を返す。
「今まで世話になった、じゃあな」

残されたマイトは誰もいないそこで、雨に打たれ続けていた。視界が狭まっていく。
冷たい雨に打たれて目を閉じれば、このまま眠りに落ちて誰かに揺り起こされて全部夢だと言われる――そんな夢想に取り憑かれかけていた翳む視界に人影が割り込んでいるのに気付いた。閉じかけた目蓋を開く、羽根の少女がいる。
「満足ですか、それで」
声には堪えるような響きがあった。服の裾を掴んで俯き、雨に濡れた髪が重く表情を隠していた。息が荒れて肩がゆっくり上下に揺れている。結んでいた唇が離れて開いた口から、激しい雨音に負けない強い語気で言葉が鳴く。
「それでいいんですか、このまま皆バラバラになって、それで……」
満足もなにもない。もうなにかが折れてしまった気がする。一緒にいるにも無力すぎて、みんなを……彼女を護ることももうできない。この先の冒険を続けることはできない。諦観に捕らわれて立ち上がることさえ出来ない。昏い妄想に捕らわれた頭に、激しい言葉が響いた。
「私は嫌です!」
想いをそのまま叩きつけられて身体が僅かに反応する。顔を上げて真っ直ぐに声を荒げた、ここまで激しい彼女を見たのは初めてだ。魔術師は我知らず拳を握りこんでいた。
「……話し合うように説得してきます。だから立ち上がってください。こんな、こんな形で終わりなんて、納得できるわけないじゃないですか!」
肩を震わせて精一杯の声を絞り出し言い捨てて、月城 紗雪は去っていった。遠ざかり水跳ねる足音を聞きながら、ゆっくり力を篭めて右腕を振り上げた。

「なにをしているんだ、僕は」
この身体の限界が近いことは判っていたことじゃないか。結論を先延ばしにして騙していただけだ、今更に慌てて絶望気取り周りを失望させている。
「くそ、覚悟を決めろ」
この身体が満足に動かなくなっても、止まっていないならやれることはあるはずだ。この島での冒険は確かにもう無理かもしれない。だからといって、遣り残したことも諦め切れないことだってある。
十字路の君主の監視下にいる僕は、彼の目的を達することも出来ずにこの島から離れることはできないだろうが――スペアの僕にそこまでの自由はない。僕は運命に縛られて――
「……?」
なにか脳裏に閃くものがあった。僅かに首を傾げる。いやまてよ、それは、あの電子の少年によってリセットしたんではなかったか。キルリア=F=スーサイド、自身もまさかこれを読んでたわけでもあるまいが。
「これも悪運っていうのか、僕も諦めが悪いな……」
誰に告げるわけでもなく声を上げて、力を篭めて上半身を起き上がらせた。まだ動くじゃないか、膝に力を入れて立ち上がる。
身体を手に入れるためにこの島に遣わされたが、この島で手に入れなければいけないわけではない。島を離れて探すこともできる。それさえ諦めなければ、わざわざ僕を処罰するようなことはないだろう。
「生身の身体を手に入れる、それを諦めさえしなければいいんだろう?」
心に火も灯っている、そしてまだ遣り残したことも残っている。掌をひらいて二度三度握り締めマイトは瞳を見開いた、瞳の奥が鮮やかに燃えはじめる……そうだ僕は運命に縛られてなどいない!
「ならば島を離れる、そしてなにはなくともエウリーネは連れて行く……それに玖条、君には最後に応えてやらないとな」

テーマ : 栗鼠ゲーム
ジャンル : オンラインゲーム

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