二十五日目 日記
+小+
「よっと、全員揃ってる?」
魔法陣を跳ぶように一歩踏んで遺跡外に降り立って辺りを見渡す。
問題なく六人揃っているようだ。不安を吐き出して微笑む。
「風の槍、聞いたほどでもなかったな」
「これが宝玉ですかぁ」
「こんなものが本当にあるとはね」
遺跡外に出たことで緊張感も抜けたのか
口々に感想を漏らしながら羽を伸ばそうかと弛緩した雰囲気。
その中でベラだけがなにか思案顔、浮かない顔である。
「ちょっといい? ……なんか尾けられてる気がするんだけど」
「ん?」
ポツリとこぼした言葉を聞きとがめたのは後尾にいたマイトだった。
視線を感じたわけでもなく、なんとなくなんだけど、と自信のない口調。
マイトは虚空を視あげて、ぼんやりしてから踵を返した。
「この件、ちょっと僕が確かめてみよう……エウリーネは任せたよ」
「え、あんたがユーリの傍を離れるの!? いいの?」
「いやぁ……まあ遺跡外だしね」
おでこを擦りながら、妙に情けない笑みをこぼす。
あまり離れたくはなさそうだったが、尾行されてるのも気になる。
そんなとこかなと、ベラはあたりをつけて。任されることにした。
「そ。それじゃしっかり任されるわ。心配しないでちょーだい」
「うん、頼む……-小-おーい、ちょっと時間もあるし知り合いのとこに顔出してくるからヨロシク+小+」
そう先行してる仲間に大声で伝えると、そのままタッタカと道を別ける。
ベラはその後姿に妙な匂いを覚えたが、とりあえず言ったことは守ろうと無視した。
-------------
先程道を別けて入ったそう深くもない雑林のなかでマイトは香を焚いた。
毒物の一種だ、そんな強いものではない。ただ甘く死を思う香り。
その香りが充満するなかで一人目を閉じて座している。目に見えないもを視覚して。
「未練と怨嗟の迷い道……お客さんはきみたちか」
甘く腐ったどろっとした景色に影が浮かぶ。
透けた影と怨嗟の意識は死の匂いに釣られた悪霊・怨霊の類だった。
「あれだけの科人がいれば、そろそろ溢れ出すとは思っていたよ」
影は応えない、ただ連なり溶け合い数を増やして香りに釣られて渦を巻く。
雑林を埋めて濃密に凝縮して形を成す。誰彼の顔をして。
会話もできそうにはないお粗末な怨霊群。だがその姿にどこか胸を痛める。
「しかし遺跡外まで溢れ出すとは穏やかじゃない」
パチンと指を鳴らす、命のことわりを二重に重ねる。理を断る円。
ファイアサークルは雑林と外界を境界として簡易に絶った。
異変に蠢く異形に、ちからなく笑いかけて息を吐く。
「悪いけどサヨウナラ。僕は弱いものいじめは得意なんだ」
雑林で火の手が上がって、その一角が燃え上がったのは後で小さな騒ぎになった。
当事者は追求されることなく、注意が出されただけとなれば反省もしていない。
それどころか翌日の新聞の一面の小さな記事を指で弾いただけでそのことを忘れることにしたのだから。
あれらと自分が似ているなんて思いたくなかったから。
-小-
「よっと、全員揃ってる?」
魔法陣を跳ぶように一歩踏んで遺跡外に降り立って辺りを見渡す。
問題なく六人揃っているようだ。不安を吐き出して微笑む。
「風の槍、聞いたほどでもなかったな」
「これが宝玉ですかぁ」
「こんなものが本当にあるとはね」
遺跡外に出たことで緊張感も抜けたのか
口々に感想を漏らしながら羽を伸ばそうかと弛緩した雰囲気。
その中でベラだけがなにか思案顔、浮かない顔である。
「ちょっといい? ……なんか尾けられてる気がするんだけど」
「ん?」
ポツリとこぼした言葉を聞きとがめたのは後尾にいたマイトだった。
視線を感じたわけでもなく、なんとなくなんだけど、と自信のない口調。
マイトは虚空を視あげて、ぼんやりしてから踵を返した。
「この件、ちょっと僕が確かめてみよう……エウリーネは任せたよ」
「え、あんたがユーリの傍を離れるの!? いいの?」
「いやぁ……まあ遺跡外だしね」
おでこを擦りながら、妙に情けない笑みをこぼす。
あまり離れたくはなさそうだったが、尾行されてるのも気になる。
そんなとこかなと、ベラはあたりをつけて。任されることにした。
「そ。それじゃしっかり任されるわ。心配しないでちょーだい」
「うん、頼む……-小-おーい、ちょっと時間もあるし知り合いのとこに顔出してくるからヨロシク+小+」
そう先行してる仲間に大声で伝えると、そのままタッタカと道を別ける。
ベラはその後姿に妙な匂いを覚えたが、とりあえず言ったことは守ろうと無視した。
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先程道を別けて入ったそう深くもない雑林のなかでマイトは香を焚いた。
毒物の一種だ、そんな強いものではない。ただ甘く死を思う香り。
その香りが充満するなかで一人目を閉じて座している。目に見えないもを視覚して。
「未練と怨嗟の迷い道……お客さんはきみたちか」
甘く腐ったどろっとした景色に影が浮かぶ。
透けた影と怨嗟の意識は死の匂いに釣られた悪霊・怨霊の類だった。
「あれだけの科人がいれば、そろそろ溢れ出すとは思っていたよ」
影は応えない、ただ連なり溶け合い数を増やして香りに釣られて渦を巻く。
雑林を埋めて濃密に凝縮して形を成す。誰彼の顔をして。
会話もできそうにはないお粗末な怨霊群。だがその姿にどこか胸を痛める。
「しかし遺跡外まで溢れ出すとは穏やかじゃない」
パチンと指を鳴らす、命のことわりを二重に重ねる。理を断る円。
ファイアサークルは雑林と外界を境界として簡易に絶った。
異変に蠢く異形に、ちからなく笑いかけて息を吐く。
「悪いけどサヨウナラ。僕は弱いものいじめは得意なんだ」
雑林で火の手が上がって、その一角が燃え上がったのは後で小さな騒ぎになった。
当事者は追求されることなく、注意が出されただけとなれば反省もしていない。
それどころか翌日の新聞の一面の小さな記事を指で弾いただけでそのことを忘れることにしたのだから。
あれらと自分が似ているなんて思いたくなかったから。
-小-